最近では活性酸素が老化や疲労のほか、多くの病気や日々の不調に関わっているということが周知されつつあり、医療機関で抗酸化療法をおこなう所も増えてきました。
中でも、鼻から吸うだけの「水素吸入療法」は有害な悪玉活性酸素(ヒドロキシラジカル)を選択的に取り除くことで、さまざまな不調に対して効果が期待できます。
これが発見された2007年から研究は急速に進み、2016年には先進医療で用いられるほどに。
今、“サビない身体づくり”を目指すひとが注目している「水素吸入療法」の特徴や、ほかの抗酸化療法とのちがいを知っていますか?
「水素吸入療法」とは
「水素吸入療法」は、専用のチューブをつかって鼻から酸素とともに水素ガスを吸う療法です。
2007年に、これまで身体における影響はほとんどないと考えられてきた水素が、選択的に活性酸素を取り除く働きをもつということが発見されてから急速に研究が進みました。
多くの論文が発表されるとともに、がんや生活習慣病、神経に関する病気に加えて炎症性の病気まで幅広い分野で注目を集めています。
近年では身近な医療機関でも、この「水素吸入療法」を提供する医療機関が増えてきました。
なかには、高濃度ビタミンC点滴と同時に受けることのできるところもあります。
「水素吸入療法」とほかの抗酸化療法とのちがい 「水素吸入療法」がほかの抗酸化療法と大きくちがうのは、選択的に有害な活性酸素だけを取り除くことができるという点です。
一般によく知られるビタミンCやグルタチオンなどの抗酸化物質は、活性酸素の種類を区別して取り除くことができません。 ここで、活性酸素には2つの種類があります。まず1つ目は、私たちの身体を細菌やウイルスから守ったり、血管をひろげて血圧を上がりにくく保ったりする善玉活性酸素(スーパーオキシド、過酸化水素、一酸化窒素)。
そして2つ目は、細胞や遺伝子に障害を与えることで多くの病気や老化などを引き起こす、悪玉活性酸素(ヒドロキシラジカル)です。
この2つのうち、「水素吸入療法」で悪玉活性酸素だけを選んで取り除くことができる理由は、水素分子の還元力※が穏やかで弱いから。
その力は、ビタミンCやグルタチオンに比べると1%にも及びません。
これが功を奏し、身体にとって必要なシグナル伝達※や免疫システムを担う善玉活性酸素まで除去してしまうことを防げるという訳です。
また、水素分子は極めてちいさいサイズで、細胞のなかにあるミトコンドリアや遺伝情報を保存する核の内部まですばやく入り込みます。
さらには、電子的な偏りがないうえに水と脂の両方になじむ性質をもつため、血流の滞った部位や脳でも入っていくことが可能です。
※還元力:物質から電子を受け取る化学反応(これを還元という)を示す力のことで、酸化力の対義語。
※シグナル伝達:細胞が適切に働くために必要な刺激や物質などを、ほかの細胞とやりとりする流れのこと。
水素ガスの安全性と副作用は?
“水素ガス”と聞くと、爆発や燃焼の危険性があるのではと考えるひともいるかもしれません。
しかし、これが発火するには500℃以上の高温が必要なことと、4.1%以下の濃度では爆発しないということもわかっています。
また、とても軽い性質をもつ水素はガラスさえも透過するため、室内で濃度が高くなり過ぎるようなこともありません。
ふつう、「水素吸入療法」につかう水素ガスの濃度は2%で、酸素と一緒に鼻から吸引します。
万が一、過剰に吸っても悪玉活性酸素(ヒドロキシラジカル)と反応して無害な水に変換されるほか、皮膚や髪の毛として体外に抜け出るために心配はありません。
加えて、水素分子そのものに副作用はないということが論文でも発表されています。
腸内細菌の生み出す水素ガスにも抗炎症作用がある 水素ガス(H2)は一酸化窒素(NO)や一酸化炭素(CO)などとちがって、私たちの細胞ではつくりだすことができません。
しかし、私たちの呼気中やおならの中には水素ガスがふくまれています。
これは、ある種の腸内細菌が水素ガスを生み出しているからです。
日内変動はあるものの、腸のなかでは1日に4~12Lもの水素がつくられていると言われています。
もっと詳しくいうと、腸内細菌が1gの糖質を消化して発酵することで生まれるガスの全体量は200~250mL、そのうち約50mLが水素ガスです。
この腸内細菌が生み出す水素ガスによって、肝臓の炎症を抑えることができるという動物での実験報告もあります。
水素を身体に取り込む4つの方法 水素を身体に取り込むには鼻から吸う「水素吸入療法」のほか、水素ガスを溶かした水を飲む「水素水」、そして医療機関でおこなう生理食塩水※の点滴や点眼薬があります。
ただし、一部の状態をのぞき自由診療にあたるため、価格やメリットについて医師に確認することが大切です。
この“一部の状態”というのは、病院の外で急に心臓が停止し、救急蘇生(そせい)術によって心臓の鼓動は再開しても脳をはじめとする臓器の機能が損なわれている状態で、「心停止後症候群」と呼ばれています。
これについては2016年から、国の定める先進医療※の適応で「水素吸入療法」がおこなえるようになりました。
そして今、水素の働きはがんの治療にともなう放射線療法や抗がん剤の副作用に対しても有効性が高いとして、さらに研究がすすめられているところです。
※生理食塩水:ヒトの体液、とくに血清と浸透性を等しくした食塩水のことで、濃度は0.9w/v%を指す。
※先進医療:まだ保険診療の対象となっていない先進的な医療技術と、既存の保健診療との併用を認める療養のことで、国民の安全性の確保と患者負担の軽減などを目的としている。
飲む「水素水」は効果がある?
取り入れる水素の量は、体重50kgのひとが2%の水素ガスを吸うと、体内の水素濃度が1Lの飽和水素水※と同じ濃度になると考えることもできます(全身を水と仮定した場合)。
ただ、「水素水」を飲んでも10分ほどで水素分子は呼気としてすぐに身体の外へ排出され、脳や筋肉でその増加を確認することはできません。
一方で胃や小腸、肝臓などでは「水素水」を飲むほうが、水素ガスを吸うよりも一時的に高い濃度が得られるという報告も。
また、「水素水」を飲んで増えた呼気の水素濃度は、わずか1時間で元の状態に戻るとも言われています。
ここで、1mLの「水素水」を飲んで得られる水素ガスの量は、腸内細菌が1gの糖質をもとに生み出す水素ガスに比べると4分の1にも及びません。
このような話をふまえると、「水素吸入療法」のほうが全身くまなく水素分子を送り届けることができるといえるでしょう。
ただ、動物を用いた実験で、「水素水」を飲ませると脳を酸化ストレスから防御する能力が向上することや、認知機能に深く関わる神経細胞の変性が抑制できるといった報告があるのも事実です。
注意したいのは、これらはヒトでの検証や科学的な裏付けがまだ乏しいということ。
それにもかかわらず、市場にある一部の商品には「水素水」を飲むと、「疲労回復に効く」や「炎症やアレルギー症状の抑制効果」、「脂質代謝の改善に効く」などの誇大広告に値するような表現も見かけます。これらの情報を正しく理解し、メリットを考えながら取り入れていくことが大切です。
※飽和水素水:最大限の溶解度まで溶けた(これを飽和という)水素水のこと。
水素の水に対する飽和濃度は、約1.6ppm(パーツ・パー・ミリオン、1ppm=1mg/Lに相当)。
「水素吸入療法」を取り入れるときの注意点 「水素吸入療法」を取り入れるときには、吸入機器の性能にも注意が必要です。
医療機関で医師の問診を受けてから吸引する場合をのぞき、レンタルや個人的に吸入機器を買うとなると、その性能を見極めるのがむずかしいかもしれません。
ここで、医療機関であつかう吸入機器の場合は1分間におよそ1200mLもの水素ガスを発生することができ、体調に合わせた時間を医師が設定するほか、きちんとした機器のメンテナンスもおこなっていることがほとんどです。
水素の働きは今後ますます注目を集め、病気の治療だけでなく美容や疲労回復など日常的な身体のメンテナンスとして広まっていく可能性があります。
最近では、「水素吸入療法」が過度な交感神経の活性化をおさえることで血圧を下げるという研究報告も。
長い人生では元気なうちから、高血圧症などの予防について取り組む姿勢が大切です。
何か試してみたいと考えているひとは、“サビない身体づくり”のひとつとして検討してみるのもよいでしょう。